――メフィラス星人が人間に委ねたもの
「地球をあなたにあげますと言いなさい」
その言葉は、穏やかでした。
脅しでもなく、
怒号でもなく、
ただ、静かな提案。
けれどあれは、侵略でした。
力による侵略ではなく、
選択による侵略。
そしてその選択は、
私たち自身に委ねられていました。
■ 彼は、暴力を使えた
忘れてはいけないことがあります。
メフィラスは、暴力を使えない存在ではありませんでした。
実際、彼はウルトラマンと互角に渡り合っています。
やろうと思えば、地球を力で制圧することもできたはずです。
それでも、彼はそうしなかった。
できたのに、やらなかった。
なぜでしょう。
暴力で奪えば、
人類は被害者になります。
しかし、選択させれば。
人類は、自ら未来を差し出す存在になり得る。
メフィラスが欲しかったのは、
地球そのものではなく――
人類の判断だったのかもしれません。
■ なぜ、子どもだったのか
初代メフィラスは、子どもに迫りました。
それは単に操りやすいからだったのでしょうか。
私は、少し違う気がしています。
彼は、大人を評価していたのではないでしょうか。
国家は軽率に地球を売らない。
組織は未来を簡単に差し出さない。
大人は責任を理解している。
だからこそ、
責任を背負いきれない存在に問いを投げた。
「大人なら、言わないだろう」
そんな評価があったのかもしれません。
■ そして『シン・ウルトラマン』
時代が変わり、
メフィラスは大人と交渉します。
国家を相手にし、
合理性を語り、
双方に利益があると提案する。
暴力ではなく、理屈。
ここで、ふと思います。
メフィラスは、人類への評価を下げたのではないか、と。
もう大人でも“言うかもしれない”。
合理性の名のもとに、
未来を差し出すかもしれない。
だから、子どもではなく大人を選んだ。
それは失望でしょうか。
それとも、冷静な分析でしょうか。
■ 合成の誤謬という罠
合成の誤謬とは、
一人ひとりにとって合理的な選択が、
全体では破滅を招くこと。
「あなた一人の選択ですよ」
そう言われれば、
小さな決断に思える。
でもそれが積み重なれば、
世界は動く。
さらに、もう一つの刃があります。
全体にとって合理的な判断が、
個人の才能や可能性を押し潰すこと。
組織にとって効率的。
社会にとって最適。
けれどその合理性の中で、
どれだけの夢が消えていったのでしょう。
どれだけの可能性が
「非効率」と判断され、
静かに閉じ込められたのでしょう。
合理性は悪ではありません。
でも、その積み重ねは
気づかないうちに世界を一方向へ固定する。
メフィラスの甘言は、
そこを突いています。
■ もし、暴力だったら
仮に、彼がこう言ったとしたら。
「地球を差し出せ。
さもなくば、お前とその家族を消す」
あるいは。
「地球を渡せば、お前とその家族の命だけは助けてやる」
圧倒的な力を前に、
私たちは何を選ぶでしょう。
家族か。
世界か。
暴力は、分かりやすい。
しかしメフィラスは、
その構図を選ばなかった。
なぜなら、
恐怖では人間の本質は測れないから。
彼が見たかったのは、
人類が自ら何を選ぶかだったのではないでしょうか。
■ なぜ、決着をつけなかったのか
メフィラスとウルトラマンの戦いは、
完全な決着では終わりません。
もしウルトラマンが圧倒的に勝っていれば、
物語は単純だったでしょう。
「ヒーローが守ってくれた」
でも、そうはならなかった。
メフィラスは引いた。
それは敗北だったのでしょうか。
それとも――
答えを人間に返したのではないでしょうか。
地球は人類のものだ。
だから、守るか差し出すかを決めるのも
人類自身であるべきだ。
ウルトラマンではなく、
私たちが。
■ まだ、言わずにいられるか
メフィラスは侵略者だったのかもしれません。
けれど同時に、
人類の評価者でもあったのかもしれません。
初代では、大人を信じていた。
『シン』では、その信頼が揺らいでいる。
では、今の私たちはどうでしょう。
合理性の名のもとに、
未来を差し出していないでしょうか。
全体のためにと、
個人の可能性を切り捨てていないでしょうか。
圧倒的な力を前にして、
家族を守るために世界を差し出さないと
言い切れるでしょうか。
決着は、つかなかった。
それは戦いが終わらなかったからではありません。
答えが、
まだ私たちの側に残されているからです。
では――
私たちは、まだ言わずにいられるでしょうか。


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