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第4章 問いを継ぐ者、問いを凍らせた社会――成熟という分岐

――成熟という分岐

『ウルトラマンメビウス』に登場したモロボシ・ダンは、かつて我々が知っていたセブンとはどこか違っていた。

断定しない。
怒鳴らない。
若い世代を追い込まない。

だが、背中は見せる。

レオの時代、世界には後がなかった。
強さは生存条件だった。
育てる余裕はなく、苛烈さはやむを得なかった。

だが今の彼は違う。

若い世代に責任を押し付けず、
過去の自分を否定せず、
正義を再審し続けている。

かつてレオを怒鳴り、
立たせるために追い込むしかなかった自分を、
彼は否定しない。

だが――誇りもしない。

あの時、あれしか出来なかったという事実を、
静かに引き受けている。

それが成熟だった。


■ 世代の分岐点

バブル崩壊後に社会へ出た、いわゆる氷河期世代。

彼らは構造の転換点に立たされた。

終身雇用は揺らぎ、
成長神話は終わり、
だが責任の所在は明確にされなかった。

採用は絞られ、
機会は減り、
足場は突然取り払われた。

それでも社会は言った。

「努力が足りないのではないか」と。

やがて「自己責任」という言葉が、
構造の失敗を包む便利な布として使われ始めた。

会議室で若い社員の疑問が軽く笑われる。

「時代は厳しいからな」

その一言で、問いは凍る。

しかしこれは、一世代の問題ではない。

足場が崩れたとき、
それを構造として引き受けるのか、
個人へと転嫁するのか。

その選択の問題だった。


■ 異星人は何を見たのか

数多いる侵略者の中に、
この星を見限った異星人がいたのではないか。

彼は武力を選ばなかった。

巨大な怪獣も、圧倒的な力も不要だと判断したのかもしれない。

なぜなら――

世代は分断され、
成功体験は神話化され、
問いは継承されないまま凍結していたからだ。

侵略の必要はない。

放っておけば、内部から摩耗していく。

問いを凍らせるのは、
大きな陰謀ではない。

ほんの一言の軽さだ。


■ 成熟がもたらしたもの

だが同じ時代に、
モロボシ・ダンは問いを凍らせなかった。

彼がもたらしたのは、
怪獣を倒す力ではない。

完璧でなくていいという許可。

若き日のセブンは絶対だった。

だが成熟したダンは違う。

迷っている。
過去を抱えている。
後悔を知っている。

それでも立つ。

正義を疑ってもいい。
過去に傷があってもいい。
それでもヒーローであり続けられる。

それは若い世代にとって、
決定的な自由だった。


■ なぜ許可を出せたのか

だがこの許可は、
一人では出せない。

モロボシ・ダンは孤独を経験した。

レオ時代の焦燥。
平成セブンの幽閉。

だが彼は、本当に一人ではなかった。

光の国には、
同じ使命を背負った者たちがいる。

ゾフィーがいる。
初代ウルトラマンがいる。
レオがいる。

正義は彼一人のものではなかった。

共有された歴史の中にあった。

失敗も、迷いも、
個人の恥ではなく、
積み重ねられた経験だった。

だから彼は、
完璧でなくていいと言えた。

完璧でなくていいという許可は、
孤立した者には出せない。

共同体の中でのみ生まれる。


■ 社会との決定的な違い

社会はどうだったか。

失敗を共有しなかった。
構造を共有しなかった。
世代を分断した。

だから、

「完璧でなくていい」という許可が出せなかった。

若い世代は、
成功の再現を求められた。

条件が違うことを、
認めるのが遅すぎた。

問いを継承する文明と、
問いを凍結する文明。

その差は静かだが、
未来を分ける。


■ メビウスへ

メビウスは答えを受け取ったのではない。

許可を受け取った。

迷ってもいい。
仲間に頼っていい。
完璧でなくていい。

彼は一人で戦わない。

GUYSという仲間がいる。
ウルトラ兄弟という歴史がある。

ダンが完成しなかったからこそ、
メビウスは歩き出せた。


■ 侵略する価値のない星か

もしこの星が本当に
侵略する価値のない世界なら、

それは弱いからではない。

完璧を装い、
問いを手放すからだ。

だが――

問いを抱えたまま立つ者がいる限り、
文明は完全には摩耗しない。

完璧でなくてもいいと知った世界は、
まだ終わらない。

モロボシ・ダンの成熟は、
怪獣を倒すよりも静かに、
しかし深く、この星を救っていた。

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