――オールマイトが背負っていたもの
安心した暮らしは、そこにあった。
犯罪率は低下し、治安は良い。
最低限度の生活も保証されている。
誰もが
普通に暮らすことができる社会。
そんな社会の中で
わざわざ危険な役割を引き受ける人間が
どれほどいるだろうか。
誰かの代わりに
貧乏くじを引く人間が
いるだろうか。
これは決して
遠い世界の話ではない。
現実の社会を見ても
似た問いはすぐに見つかる。
自衛隊や警察のなり手不足。
「自分たちの国や街は自分たちで守る」という意識の希薄化。
近隣諸国が攻めてこないと
誰が保証したのか。
隣人が凶悪犯ではないと
誰が断言できるのか。
そんなことは
ありえない?
では
もう一つだけ問いを投げよう。
その平和は
誰が守っているのか。
そして――
もし
その「誰か」が
いなくなったとき
社会は
どうなるのか。
今回は
ある一人の男を手がかりに
この問題を考えてみたい。
その男の名は
オールマイト
彼は
僕のヒーローアカデミア
の世界で
「平和の象徴」
と呼ばれた男である。
彼の圧倒的な力は犯罪の抑止力となり、社会全体に安心感を与える存在だった。
だが――
その平和は
本当に社会の強さだったのだろうか。
それとも
一人の英雄に支えられた平和
だったのだろうか。
「僕のヒーローアカデミア」を読んだことがある人。
アニメを観たことがある人。
その人たちに
一つ聞いてみたい。
オールマイトを見て
他のヒーローを心から批判できる人は
いるだろうか。
おそらく
いないと言っていい。
あなたも
こう思ったはずだ。
なぜ
オールマイトが
あそこまで罵声を浴びなければならないのか。
なぜ
作戦に失敗したヒーローたちを
そこまで糾弾するのか。
なぜ
会見に臨んだヒーローたちの
過去の過ちや出生までも
袋叩きにするのか。
なぜ
ボロボロになりながら戦った
緑谷出久を
危険分子として
排除しようとするのか。
そして
あなたはこう思ったはずだ。
「なんて愚かな人たちだ」
と。
だが
ここで
少しだけ立ち止まって考えてみてほしい。
あなたの会社や
学校のクラスにも
似たような存在は
いないだろうか。
なにげなく
ケンカの仲裁をしている友人。
部署間の摩擦を
いつの間にか和らげている
「普段なにをしているのか
よく分からないおじさん」。
誰に言われたわけでもないのに
花壇に水をやり
コピー用紙を
補充している事務員さん。
彼らは
目立たない。
評価されることも
ほとんどない。
だが確かに
組織を支えている。
組織論では
こうした働きを
見えない仕事
と呼ぶことがある。
彼らがいなくなっても
すぐに組織が崩れるわけではない。
だから
問題は見えにくい。
しかし
その影響は
ゆっくりと現れる。
人間関係の摩擦が増え
小さなトラブルが増え
組織の空気が変わっていく。
そして
気づいたときには
組織は
じわじわと蝕まれている。
ヒーロー社会も
同じだった。
市民は
平和を当然のものとして
受け入れていた。
だが
その平和は
偶然ではない。
誰かが
見えない場所で背負っている
ものだった。
そして
その中心にいたのが
オールマイト。
彼は
ヒーロー社会において
「平和の象徴」と呼ばれ
人々に
安心と希望を与える存在だった。
だが
その安心は
人々から
ある感覚を
少しずつ
奪っていく。
それは
危機感
である。
そして
平和が揺らいだとき
人々はこう言う。
「どうして守れなかった」
「どうして失敗した」
「どうして防げなかった」
だが
本当に問われるべきなのは
別のことかもしれない。
社会は
平和を守っていたのか。
それとも
彼に守らせていただけだったのか。
象徴が消えたとき
オールマイトが引退したとき
ヒーロー社会は大きく揺らいだ。
それは
単に
強いヒーローが一人いなくなった
という話ではない。
社会を支えていた
見えない柱
が
消えた瞬間だった。
人は
守られているとき
それを
当然のものだと思う。
だが
その守りが
消えたとき
はじめて気づく。
自分たちは
支えられていた側だった
ということに。
だから
社会は混乱する。
不安が広がる。
そして
人々は
責任を
誰かに押し付け始める。
その矛先が
ヒーローたちであり
そして
ボロボロになりながら戦った
一人の少年だった。
緑谷出久。
だが
ここで
もう一度
最初の問いに戻ろう。
社会は
平和を守っていたのか。
それとも
誰かに守らせていただけだったのか。
もし
後者だったのなら
問題は
ヒーローではない。
問題は
社会そのもの
なのかもしれない。



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